書評:ブロックチェーン入門(ベスト新書)
この本の特徴
誰がこの本を書いている?
森川 夢佑斗さん。京都大学在学中、アルタアップス株式会社というブロックチェーン導入に関するコンサルや、複数の暗号通貨に対応するWallet「Alta Wallet」の提供をしている会社を立ち上げており、国内におけるブロックチェーンコミュニティの発足や、専門メディアなどの運営を行っているそう。
この本が果たした価値は?
- ブロックチェーンがどのようなユースケースで有効なのか、対応できるのかを理解できた
誰にオススメできる?
- ブロックチェーンの仕組みは理解しているけど、どういったユースケースが存在するのかを知りたい技術者
書評内容
- なぜ今ブロックチェーンが盛り上がっているのか
- ブロックチェーンの実用化を後押しする仕組み
なぜブロックチェーンが盛り上がっているのか
ブロックチェーンの導入による大きな特徴として、信用のあり方が変わっていくということ。
今まで取引を個人間で行う際、必ず中立性を保つ信用のある第三者を保つことで安全な取引を行おうとしていたが、
この第三者が何らかの理由で機能できなくなってしまった場合、
取引の安全性は保証されなくなってしまう。
本書では詳細に解説するための事例としてUberを挙げていたが、
カウンターパーティー・リスクをなくすためには、中央管理をしないようにするための仕組みが必要だと述べている。
そこで、この安全性の保証を複数人で保証することで、第三者に情報を預けるリスクとデメリットから脱却するのがブロックチェーンの役目となる。
ブロックチェーンの実用化を後押しする仕組み
ブロックチェーンの大きな特徴として、
- 情報の改ざんが困難
- 中央管理者が存在せず、分散管理されている
この2点があげられるが、ブロックチェーンがビジネスで実用化されつつある理由はもう1つ存在する。それは、スマートコントラクトと呼ばれるものである。
スマートコントラクトとは、「一連の契約処理の流れを自動化する」仕組みのことで、
イーサリアムネットワーク上で動作する。
スマートコントラクトによって、取引が成立するまでの条件をスクリプト化して、
より取引を安全かつ高速に処理ができるようになる。
前提として、取引において重要な点は、下記の2点となる。
- 契約や合意の内容が取引中に更新されないこと
- 所定のやり取りが正しく実行されること
スマートコントラクトは良く自動販売機を例に取り上げられることが多い。
自動販売機は飲み物の購入をするために複数の条件を指定する。
- 購入したい飲み物の金額以上のお金を入れる
- 購入したい飲み物のボタンを押す
この条件によって飲み物が自動的に買い手のものになる。
中古住宅の販売であれば、
- 売り手が家の鍵をロックする
- 買い手が所定の金額を売り手に支払う
この2つの条件が満たされることで、買い手側に鍵と家の所有権が移転する、といった流れになる。実際には鍵以外にも、土地登記所、不動産審査会社、住宅ローン会社などの情報も必要になるが、これらをスマートコントラクトに組み込むことによって、より安全かつ高速に契約を行うことができる。
ブロックチェーンのユースケース
- ある作品の著作権を誰が保有しているかという情報の管理
- アート作品の真偽と価値の管理
- 土地の所有者と契約データの管理
- 個人間の商売(Eコマース)
etc……
これ以外にも10個ほど実例があり、非常にわかりやすいユースケースが本書では紹介されている。
感想
ユースケースのインプットと、どういった場面で有効になりそうかは理解できた。
ただ、下記の疑問が上がった。
- 中央集権的でないのであれば、一体誰がどんなモチベーションでネットワークを作るのか。完全にボランティアじゃないのか。
- 本書ではブロックチェーンの特徴は仲介業者を必要としない、という話ではあったが、結果的に仲介業者は存在しうると思う。2者間での取引で、どちらか一方が合法的な不利益を被った場合、自己責任なのか?それを利用者は許容するのか?そこの危機負担機能を担う仲介業者の需要は必ず生まれるはず。
おそらく筆者の言うような中央集権的な仕組みからの脱却は部分的であり多くの人はできないと考えている。もっと簡単に言うと、「Bitcoin wallet」をプログラミングできない人間がブロックチェーン上の取引を執行できるのか?と言う話。
それは非常に難しく、必ずブロックチェーンやネットワーク上の窓口に仲介業者が現れる。
活用事例を多くインプットできた一方で、本当に完全な仲介業者や中央管理者の存在しない経済圏が普及するのかどうか、より疑問と興味を深める1冊だった。